犯人として警察に逮捕されたのは、
極道業界において「枝」とよばれる末端の組織である、
東城会系松金組の若頭・羽村京平。
その弁護人から事件の調査依頼を受けた八神隆之は、
羽村を無罪とする材料を探し始める。
神室町で起きた事件を調べるのは、
八神探偵事務所にとって最も得意とするところだ。
羽村は事件当夜、一晩中サウナにいたというが、
それを裏付ける物証や証言は見つからない。
一方で、事件前に羽村と被害者が口論していた
防犯カメラの映像が、警察側から公開される。
しかも防犯映像を見ると、羽村はのちに
被害者となる関西極道と口論の末、自分の息がかかった店に
引きずり込んでいたのだ。
「よく撮れてるな、この映像。
これじゃ羽村も言い訳しようがない」と呆れる八神。
警察が羽村を逮捕したのもうなずける状況が積み上がる中、
八神探偵事務所にひとりの女性が訪ねてきた。
「ごきげんよう、八神君」
と微笑む彼女の名は、藤井真冬。
若くて美人。そして検察官でもある。
八神が弁護士だった頃にはデートをしたこともあったが、
大久保新平が恋人を惨殺した一件以来、
八神は彼女と距離を置いている。
真冬が今日、ここに現れた理由は
「仕事の話で来たの。当然だけど」とのこと。
八神が羽村の事件を調べ出したと聞きつけてきたのだという。
情報源は真冬の幼馴染で大学同期だった、
源田法律事務所の城崎さおりだ。
真冬によると、逮捕された羽村の起訴が決まったという。
つまり裁判が確定し、検察や警察が手にした証拠をもとに
審議が行われるということだ。
担当検事は真冬ではなかったが、
八神にとって覚えのある人物だった。
……その名を、泉田圭吾という。
八神が大久保新平を無罪にしたときに、検事を担当していた男だ。
有罪率99.9%を誇る日本の刑事裁判で、
八神に無罪を勝ち取らせてしまった人物と言い換えることもできる。
「3年ぶりの対決ね」と、これまでずっと八神の弁護士復帰を
望み続けてきた真冬。
しかし八神にその気はない。
あくまで探偵として羽村の弁護をサポートするだけだった。
すると……
「前から思ってたんだけど。
……八神君、探偵なんて全然似合ってないからね」
さびしげな捨て台詞を残して、八神探偵事務所をあとにする真冬。
とはいえ、夜の神室町を女性ひとりで帰すわけにはいかない。
真冬を送ってやろうと呼び止める八神。
それが思わぬ誤解を招くことになった。
「なんだ、お前は?」
とたやすく八神の腕をひねりあげる紳士。
不意をつかれたとはいえ、八神の腕を握る手の力は盤石だった。
「あれ? 検事正……」
紳士の正体は、真冬の上司である、東京地検の森田検事正。
「そうか。君が八神弁護士?」
というところを見ると、八神の事情は知っているらしい。
が、森田の奥からもうひとり、
八神に不敵な笑みを向ける男性が近づいてくる。
それは、じつに3年ぶりの再会だった。
「久しぶりだな、八神先生。
法廷に立つ君を見られなくなって残念に思っていた」
……泉田検事。
おそらく、八神が法廷を離れていったことを最も愉快に感じた
人物のひとりだろう。
神室町で起きる猟奇的な殺人事件。
その裁判における役者がそろった瞬間であった……
To Be Continued.